◎江の島◎
 関東屈指の景勝地で、名所古跡を多く残す鎌倉と並んで、湘南の一大観光地の一つとして知られるのが江の島です。周囲約4キロ、標高60メートルほどの陸繋島で、島の周囲は切り立った海蝕崖に囲まれ、また島の上部は「緑の江の島」と歌われるように常緑広葉樹林に覆われて神奈川の美林五十選にも選定されています。

 古くは役小角、空海、日蓮といった名僧が次々に訪れた修験の場として知られましたが、やがて江戸時代には庶民の行楽地として賑うようになり、ことに明治43年に江之島電気鉄道が鎌倉まで全通すると、鎌倉と江ノ島を結ぶ観光ルートが確立されて爆発的に賑わいました。その賑わいは現在でも変わることはなく、昨今では磯釣り、潜水といったマリンレジャーの拠点としても発展を遂げています。
 

辺津宮社殿  写真提供:江島神社

 
◎創祀◎

 江ノ島に古くより鎮座し、特に海運・漁業・交通・芸能の守り神として崇敬を集めるのが江島神社です。

 御祭神は多紀理比売命(たぎりひめのみこと)、市寸島比売命(いちきしまひめのみこと)、田寸津比売命(たぎつひめのみこと)の三姉妹神で、島内に点在する奥津宮、中津宮、辺津宮の三つの社殿にそれぞれ一柱ずつお祀りされています。

 社伝によると、欽明天皇13年(552)、勅命によって、島の洞窟(岩屋)に神様をお祀りしたのが始まりとされ、当初は修験の場として知られました。その後、神道と仏教は同一であるという神仏習合思想の影響から、御祭神は弁才天と同一視され、芸能上達の神様としても信仰を集めるようになりました。以後、名称も金亀山与願寺と号し源頼朝、北条時政といった武将から、元寇における蒙古軍撃退に際しては後宇多天皇より勅額を賜うなど、その信仰は朝廷及び武家、庶民にまで及びました。

 明治の神仏分離令によって一切の仏式が廃されて江島神社と号し、竹生島神社、厳島神社と共に日本三大弁財天の一つとして多くの参拝者を迎えています。

  
◎龍神信仰◎
 弁天信仰とともに龍神信仰でも知られるのが江ノ島です。神社に残された江島縁起では次のように伝えています。

 その昔、鎌倉には五つの頭を持つ五頭龍がおり、山崩れや洪水等の悪行を重ねて人々を苦しめていました。人々は幼い子供を生贄に出すなどして静かな生活を送ってきましたが、そこへ天から舞い降りてきたのが天女様(弁財天)です。江ノ島はこの時に出現した島とされています。すると五頭龍はこの天女に恋心を抱くようになり、天女に諭されて生まれ変わったあとは、日照りの年は雨を降らせ、実りの秋には台風を跳ね返すなど人々の尊敬を集めるようになりました。

 こうして夫婦の契りも結んだ天女と五頭龍ですが、日に日に五頭龍は衰えを見せはじめ、山に姿を変えて鎮まることにしました。これが江ノ島の対岸に位置する藤沢市瀧口山で、五頭龍は現在でも滝口明神社にお祀りされています。天女を慕う五頭龍は、日々江ノ島を見つめていますが、60年に一度、ご神体は神輿に乗せられて江ノ島で再会を果たします。

 この二人の恋に因んで平成8年に江ノ島の新名所として造られたのが龍恋の鐘です。周りの柵に恋人の名前を刻んだ南京錠をぶら下げ、いっしょに鐘を鳴らして永遠の愛を誓うというデートスポットです。