神代巫女のただ今神道勉強中! B

 
新米巫女の神代(かみしろ)巫女にとって、神社の世界はまだまだわからないことだらけ。神職(しんしょく)の佐藤さんの手助けで日々勉強中です!

佐藤 神代さん、今日はこの熊手(くまで)にお守りを付ける仕事をしてもらえるかな?
神代 熊手? これは何に使うんですか?
佐藤 酉(とり)の市(いち)に授与するんだよ。
神代 あ、11月に行なわれる行事ですね。酉の市って、私、初めてで。
佐藤 主に関東で行なわれる行事だからね。それ以外の地域の方には、馴染みが薄いよね。
神代 はい、でもだから楽しみなんです! 確か酉の日に行われるんですよね。
佐藤 そう、11月のね。今年は一の酉、二の酉、三の酉と三日間あるね。
神代 「一の酉」「二の酉」っていう響きも、なんだか風情があって素敵です。
佐藤 そうだね。酉の市当日は実際とても情緒があるよ、参道には熊手商の露店がずらっと並んで、夜遅くまで手締めの音が響き渡って……。
神代 夜遅く?
佐藤 うん、酉の市は当日の夜中0時から24時まで、文字通り丸一日行なわれるからね。
神代 ええーっ、す、すごいですね。そんな行事があるんですね……。
佐藤 酉の市といえば浅草が有名だけど、深川の酉の市もかなりの人気で、毎年夜更けまでたくさんの方が来られるんだよ。熊手はその日だけの縁起物だしね。
神代 でもどうして、酉の市に熊手を授与するんですか?
佐藤 うん。そもそも「酉の市」という言葉はね、「酉の祭(まち)」が訛ったものなんだ。そして「酉の祭」、これは大鳥(おおとり)神社のお祭りを意味してるんだよ。
神代 大鳥神社?
佐藤 そう。大鳥神社は関東に数多く祀られているんだけど、神代さん、倭建命(やまとたけるのみこと)は知っているかな?
神代 はい! 草薙剣(くさなぎのつるぎ)でピンチを切り抜けたヒーローですよね?
佐藤 うん、その倭建命が東北地方に赴く際に戦勝祈願をしたのが、大鳥神社といわれているんだ。それに無事勝利を収めた後は、大鳥神社でお祝いをしたそうだよ。
神代 それじゃ大鳥神社の神様は、戦いの神様なんですね。
佐藤 それでね、倭建命が大鳥神社にお礼参りをしたのが11月の酉の日で、その時熊手……これは武器なんだけど、熊手を飾ったそうなんだ。
神代 なるほど、それが酉の市の原点なんですね! 神話のヒーローと酉の市の意外な関係ですね!
佐藤 ただね、酉の日は倭建命の命日だからとか、いわれには諸説あるんだよね。地元の農民たちが豊作を感謝した収穫祭という説もあるし。この場合熊手は農具のそれで、倭建命とは関係ないよね。
神代 うーん、私としてはドラマチックないわれが好みなんですが……。
佐藤 でもどちらにしても、江戸時代には熊手は酉の市の縁起物としてすっかり定着していたみたいだよ。福をしっかり掻き集めるということでね。
神代 この手の形が、御利益ありそうですもんね。
佐藤 酉の市には様々な熊手を扱う専門の露天商が軒を並べるから、その様子を見るだけでも面白いよ。神代さんじゃ抱えられないくらいの大きさのもあるしね。
神代 巨大熊手ですね……。神社の熊手は、持ちやすいサイズですよね。
佐藤 そうだね。それで神代さんには、この熊手にお守りを付けて欲しいんだ。こうして初めて、大鳥神社の神様の御神徳をいただくことが出来るからね。
神代 大事なお仕事ですね。それにしても佐藤さん、枡や小判が付いている熊手もありますけど?
佐藤 うん、それも縁起物だよ。枡は「ますます」繁昌、小判は財運向上、おかめさんは家庭円満。どれにするか選ぶのも楽しいよね。
神代 これは迷っちゃいますねー。
佐藤 酉の市は冬の訪れを告げる風物詩。木枯らし吹く中境内を灯す酉の市の提灯も、とても味わいがあるよ。
神代 晩秋の深川を肌で感じて、昔ながらの熊手で福を掻き込んで。酉の市って、詩情に溢れてますね!