第9回広島の世界遺産−厳島神社と原爆ドーム−
 
 瀬戸内海に面した広島県は海の恵みを受けて、古来山陽道の中心として栄えた地域です。平成8年に登録を受けた県内2件の世界遺産はそれぞれ、中世と現代、2つの時代を象徴するものとなっています。
 
厳島神社
 海に浮かぶ朱塗りの大鳥居が印象的な厳島神社は、古くから「日本三景」のひとつ、安芸の宮島として知られています。宮島へ渡るには、対岸の廿日市市からのフェリー以外、交通手段がありません。古くより島全体が聖域とされ、また、島内では自動車の使用も制限されています。こうした点からも美しい自然が守られているのです。
 宮島の海岸から海上に向かって建てられた厳島神社社殿の形式は他に類を見ず、6棟が国宝の指定を受けています。こうした特徴的な建築様式、また神仏習合の歴史を伝える信仰形態から世界遺産に登録されました。これらの建築物の多くは、鎌倉時代から江戸時代にかけて、武士によって寄進されたものです。平安末期に権勢を振るった平清盛をはじめとする平家一門、中国地方の大大名・毛利元就らが厳島神社を篤く崇敬したことはよく知られます。現在の本殿は、元亀2年(1571)に元就が寄進したものです。
 この社殿は海上に突き出す建築様式のため、水害をこうむりやすいという欠点あります。台風や高潮などにより頻発する被害を未然に防ぐため、最新の技術を用いた対策が急ピッチで進められています。
 また、厳島神社には、建造物のほかにも舞楽面や武具など多数の貴重な宝物が残されており、平家一門が奉納した「平家納経」をはじめ、11件もの国宝を収蔵しています。
 
原爆ドーム
 広島といえば、誰もが原爆ドームを思い浮かべるはずです。昭和20年8月6日午前8時15分、この街に世界で初めて原子爆弾が投下されました。広島市街の中心部、元安川のほとりに大正4年に建てられた広島県物産陳列館は当時、行政機関・統制組合に事務所として使用されていましたが、放射能と衝撃波の嵐を爆発のほぼ真下で浴びました。これが原爆ドームです。
 原爆ドームは戦争の惨禍のシンボルとして、昭和41年に永久保存が決定されました。ドームの背後に見える中四国最大の都市・広島の姿からは、平和の素晴らしさ、そして復興に当たった人々の労苦が伝わってきます。
 元安川を挟んだ中州は平和記念公園として整備され、市民の憩いの場となっています。ここから、様々な催しを通じて平和への祈りが世界に発信されています。
 

「世界遺産」とは、1972年の国連教育科学文化機構(ユネスコ)総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(通称:世界遺産条約)に基づき、遺跡・景観・自然など、人類が共有すべき普遍的な価値を持つと認められたもののこと。世界各地に、現在700件を超える物件が登録されています。