〜 信仰を訪ねて 〜 |
大地踏みしめる踊り 鬼剣舞 |
今回の舞台は、岩手県北上市。盛岡市に次ぐ県内第二の都市の岩崎という地に、1300年前の踊りが伝えられています。鬼剣舞(おにけんばい)です。 鬼による剣の舞。勇壮かつ異様なその名の通り、この踊りには剣を携えた異形の姿が登場します。ただし、その正体は鬼ではありません。鬼の様な形相で災いを追い払うのは、なんと仏様なのです。この特異な踊りの誕生から、まずはお話しましょう。 |
|
●修験者の踊り 鬼剣舞は、役小角によって創始されたと伝えられます。役小角、通称役行者は奈良時代に実在した有名な呪術者で、「修験道の開祖」といわれています。修験道とは日本古来の山岳信仰に、仏教・道教・陰陽道などの外来の宗教が混入して出来上がった、わが国独自の宗教。山伏や法螺貝などが、そのシンボルといえるでしょう。 鬼剣舞は大宝年間(701〜704)に役小角が念仏を唱えながら踊ったのが最初とされています。その真偽の程は定かではありませんが、鬼剣舞に修験道の影響が色濃く見られるのは確かです。 その一つが、「反閇」。剣舞がケンマイでなくケンバイと呼ばれる所以と考えられています。 ●大地を踏み清める 反閇とは陰陽道の呪術のひとつで、術者が独特の足の運びで大地を踏むことで、魔物を退ける呪いです。修験道でもかつてこの反閇は広く行われ、修験者は村々に赴いては反閇を行い、村落を踏み清めたといいます。 その反閇を踊りに化したのが、剣舞。大地を踏みしめる力強い独特のステップは、見る者の目を奪います。 さらにこの退魔の踊りを一層強力なものとするのが、手にした剣と異形の面です。前述したように、この面は仏様、正確には五大明王のお顔といわれています。憤怒に満ちた形相は、まさに角の無い鬼。 勇ましくも猛々しいこの踊りが安倍貞任はじめとした武将に大変好まれたというのも、うなずけます。 ●伝承の担い手 鬼剣舞は北上市一帯に伝承されていますが、その元祖といわれているのが岩崎地区の鬼剣舞です。長い歴史を持つこの民俗芸能は、国の重要無形民俗文化財にも指定されています。 その伝承を支えているのは、他でもない地元の人々。 子供たちは保育園や小学校で郷土の踊りを教わります。大人たちはそれぞれの勤めの傍ら稽古に励み、八月の盆供養のほか年間百を超える公演をこなします。こうして地域全体が伝承の維持に努めているのです。 祖先から受け継いだ祈りのかたちを守ろうとする心と、その心が繋ぐ強い絆。この絆こそ見る者を鼓舞してやまない、鬼剣舞のちからの源かもしれません。 |
写真提供 北上市役所 |