〜 信仰を訪ねて 〜 |
雪降る国の祈りの間 かまくら |
降り積もる雪と、雪に映える灯り。南北に長く伸びる日本列島は、地方地方で四季の姿も様々。冬景色もそれぞれですが、雪国の冬に殊更情緒を感じる方は多いのではないでしょうか。 中でも雪国秋田の情景に登場するかまくら。雪で出来た小さな部屋の中は、縁遠い子どもたちにとって ― いえ、大人にとっても憧れの世界でしょう。 今日はこのかまくらの中に、そっと入ってみましょう。 |
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●水神様を祀る 「はいってたんせ。おがんでたんせ」 かまくらを訪れると、待っていた子どもたちの朗らかな声が出迎えてくれます。「秋田の子どもには、かまくらが極楽でなまはげが地獄」と言われるように、かまくらの中は子どもたちの世界。その中心には、水神様(すいじんさま)のお札と祭壇が。 水は万物にとって命の源ですが、米どころの秋田では殊に大切な存在です。豊かな水に恵まれますように。それは、人々の切実な祈りでした。 入ってください、拝んでください―かまくらは、小さな神主さんが控える聖なる空間なのです。 ●左義長(さぎちょう)の舞台 2月15日を中心とした数日間、子どもたちが水神様を祀るかまくら行事。横手市を始め県内各地に見られますが、こうした形に定着したのは、実は明治以降のこと。 かつて、1月の小正月にかまくらが設えられていた頃。かまくらは水神様の祭場ではなく、今でも全国的に行われている小正月の行事―そう、どんど焼きや左義長と称される、火祭りの舞台の一つでした。 お正月に年神様をお迎えするために使われた門松や注連飾り、また書初めなどの吉書(きっしょ)。捨てるのではなく清浄な火で焚き上げし、一年間の安泰を祈る。その、注連飾りなどを集め、供え物をし、点火をする聖なる部屋。それが、かまくらだったのです。 ●豊作への祈り 国の重要無形民俗文化財に指定されている仙北郡美郷町六郷(せんぼくぐんみさとちょうろくごう)のかまくら行事。色とりどりの和紙に子どもたちが筆書きし、それを焚き上げするなど、ここではいまだ左義長の面影が見られます。またかまくらは六郷では、別名「鳥追い小屋」。稲への鳥の害がないように、豊作であるようにとの祈りにより名付けられました。 こうした姿は昔、きっと秋田の様々な場所で見受けられたのでしょう。 一方、井戸など生活水源の傍らで祀られていた水神様。水道の普及に伴いそうした場が失われると、水神様の祭場はいつしかかまくらの中へと移ってゆきました。 今ではすっかり水神様を祀る場となったかまくら。けれどもこうした融合も、そもそもかまくらが人々の願いを受け集める神聖な場であったからこそなのです。 「甘酒あがってたんせ」 子どもたちが振舞ってくれる甘酒には、豊かな水と稔りがもたらす幸せがいっぱいに満ちています。 |