第2回 白川郷・五箇山の合掌造り集落
 
 急峻な飛騨の山々に囲まれた岐阜県白川村、そして富山県南砺市は、日本有数の豪雪地帯です。その厳しい冬に耐えるために土地の人々の工夫から生まれたのが「合掌造り」の住宅です。
 白川郷・五箇山の合掌造り集落は、日本文化を代表する伝統的集落として平成六年に世界遺産へ登録されました。白川郷とは岐阜県内の庄川流域を指し、大野郡白川村と高山市 荘川市に当たります。もともとは前者を下白川郷、後者を上白川郷と呼びましたが、今日では白川村を白川郷と呼ぶことが多いようです。五箇山地区は富山県南砺市にあります。
 白川郷・五箇山地域内にはあわせて約五百十棟の合掌造り住宅があります。これらは築百五十年から二百年ほど経っていますが、大半は現在も住居として使用されており、まさに生きている世界遺産といえます。中には資料館として開放されているものや民宿もあり、私たちも実際に生活を体験できるのも特徴でしょう。

 山間に立ち並ぶ、三角にとがった茅葺屋根。この合掌造り特有の屋根は、江戸時代に養蚕用の棚を屋根裏に設置したのが始まりといわれています。屋根裏の空間を活用するため、屋根は大型化してきました。また、雪質の重い地域なのでその加重に耐え、雪下ろしの手間を省くために自然と雪が滑り落ちるよう、今日見られるような急角度のユニークな屋根が完成しました。住宅自体は屋根を東西に向けて建っています。これは、どちらの地区も南北に伸びる谷あいに位置するためで、これにより南北方向からの強風をしのぎ、また全体への日当たりを均等にしているのです。
 合掌造りは茅葺屋根のため、二十年程度の間隔で葺き替えが必要です。大変な労力を必要とするので地域の人たちは協力して作業に当たりますが、この共同体を「結」と呼びます。家庭や世代を超えた結の団結によって、合掌造りの伝統は守られてきたのです。しかし、近年は過疎化・高齢化が進み、茅葺の技術を伝える人が少なくなっているようです。こうした経緯から、世界遺産白川郷合掌造り保存財団をはじめとする団体やボランティアによる積極的な保存活動が行われています。
 しかしながら、世界遺産への登録後は指定地域への観光客が急増し、高速道路開通が迫るなど周囲の環境も急変しています。中には住宅の戸を勝手に開けたり、無断で写真を撮ったりするマナーの悪い観光客もいるとか。先にも述べましたが、合掌造りの住宅は博物館や遺跡ではなく、実際に住む人のいる生活の場です。見学には十分な配慮を持って臨みましょう。

 

「世界遺産」とは、1972年の国連教育科学文化機構(ユネスコ)総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(通称:世界遺産条約)に基づき、遺跡・景観・自然など、人類が共有すべき普遍的な価値を持つと認められたもののこと。世界各地に、現在700件を超える物件が登録されています。